杉野晋平「Home Listening ホームリスニング」


このたびTOMO都市美術館では、杉野晋平による一日限りのサウンドインスタレーション展「Home Listening ホームリスニング」を開催します。行為詩や自作楽器という独自の手法で新しい音を探求してきた杉野。彼の表現からは、この世界の成り立ちには必ず音が介在しているのだということを気づかせてくれます。今回は杉野にとっても大きなチャレンジとなる長時間の発表となります。大きな注目を浴びたパフォーマンス「パイルドライバー」をはじめとするパフォーマンスの記録映像と、この日限りの即興演奏がノンストップで上演されます。さらに杉野がリーダーを務めるバンドKCN.kitchenの名前が示す通り、彼が大きな関心を寄せる「食」についても一緒に楽しめる会でもあります。オリジナルドリンクを飲みながら半日間、杉野晋平の世界観に浸っていただければ幸いです。

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杉野晋平「Home Listening ホームリスニング」開催概要
会期 : 2023年5月13日 (土) 15:00-22:00
会場 : TOMO都市美術館 (東京都杉並区西荻南2-9-12)
入場料金 : 500円 (1ドリンク付)
飲食 : オリジナルドリンク・フードあり
グッズ販売 : パイルドライバー映像入りSDカード木片

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冷蔵庫演奏について
・ 自宅で使っている1〜2人暮らし用冷蔵庫にピックアップマイクをかざしギターエフェクターを繋ぎ演奏する。家以外の会場で演奏する際は、基本的に自宅から冷蔵庫を持ち出し4輪の台車にのせ時間帯に配慮し、電車で移動している。現在はエレベーター無しの4階に住んでおり搬入搬出が体力的に大変である。冷蔵庫を楽器にしているためその移動の体力的な負荷は顕著に意識されるが、ギタリストやベーシスト他、楽器を持って移動するということはとても大変な事だと思う。練習スタジオやホールにそれを持って向かう事は大変なことだ。疲れたあとで演奏し、また持って帰らなければならないという宿命を背負ったミュージシャン達を私は尊敬している。
・ 冷蔵庫の面白いところは電源にコンセントが刺さったら駆動しっぱなしというところである。つまり、他の家電と違いon/offのボタンがない。特に冷蔵室は、内容物の温度を一定に保つために駆動し続け、時折庫内の上がり過ぎた温度を下げるため唸りのような音を上げて一生懸命ブースト駆動する。その音が気になり眠れなかった時も、一人暮らしを始めたての頃にあった。1人でいる際に聞こえてくる音なので孤独を連想させる性質によって寂しい気持ちになった。食べ物の保存に関しては申し分なかったのでより良い機種に買い換える気にもなれず、この冷蔵庫の音とどう付き合っていこうかと思っていた時に見かけたエピソードがある。それは、宇宙飛行士が宇宙ステーションでの任務中、原因不明のアラームに悩まされた際の対処法についての話で、あらゆる手を尽くしてもその音の原因が分からず精神的に追い込まれてしまったら、その音を愛おしいものと意識するという話である。某ネット掲示板のまとめサイトで見かけた文章なので本当にある話なのかわからないが、機械の音との付き合い方としてとてもいい話だなと思った。私の場合は原因が判明しているし、あとは認識の変え方付き合い方の変化を私が起こせば良いと思った。私は音楽が好きだし、冷蔵庫で音楽をすることは面白いことかもしれないなと思った。現在も家にいる際にはその音と共に生活をしている。私が家にいなくても冷蔵庫はその内容物を冷やしながら音を鳴らし続けている。
・ 音の操作はエレキギターのエフェクターを使っている。全体の音量を調節するものと、周波数ごとに音量を変えるものと、音程を変えるものと、短時間録音するものと、音を反響させるものを使っている。初めは、ルイジ・ルッソロの「騒音音楽」やいわゆるノイズミュージックのような大音声至上主義的な演奏をやろうと思いそうしていたが、ラ・モンテ・ヤングなどのドローンミュージック的演奏の方が冷蔵庫の駆動の持続性と相性がいいと思うようになった。
・ 今回TOMO都市美術館で行う15時〜22時までの演奏は、意識的に音響機材を使って演奏する場合の私自身の最長時間なので大変楽しみにしている。昨年、参加予定だったが病欠してしまった24時間身体アンデパンダンのリベンジ(17時間足りないが。)にもなったらいいと思っている。

パイルドライバーについて
・ 自作楽器の杭型エレキギターとそれを用いたパフォーマンス作品の名前である。楽器の構造は90×90×900(mm)の木材の片方を四角錐形に尖らせた杭にエレキギターのピックアップと弦を搭載したもので、それをアンプスピーカーにシールドケーブルで繋ぎ、土の地面に、杭の先端を下にして、杭が沈んでいくように力強く両口ハンマーで打ちつける。弦の震える音とハンマーが木を叩く音が響き、木材が割れたり地面に沈む過程で弦が地面に押さえ付けられることによって音が変わったりする。打ち初めか打ち終わりを一演目としていて、打ち終わりはハンマーを振り下ろす体力が無くなる事と杭が打てる状態で無くなったら終わりとしている。アンプの電力はカーバッテリーにインバータを繋いだ物を電源にしている。アンプスピーカーはRolandのJazz Chorus-120(以下、JCとする)というものを使用している。このアンプは日本において、ライブハウスや練習スタジオに必ずと言っていいほど設置されている。ミュージシャンやその他それらの施設を利用したことのある者にはお馴染みのアンプスピーカーである。操作が簡単で迫力のある大きな音が出ると言うこともJCを使う理由だが、JCを使う事によってパイルドライバーがエレキギターの変化系だということを強調する効果を期待している。
・ パイルドライバーは私の自作楽器の第1号で、練習が要らない楽器が欲しいと思った事が作るきっかけである。杭を打つ練習とハンマーを持ち上げる筋力はあえて言えば必要であるが、それは元々私に備わっていた技術であったし、杭を打つ動作に餅つきのお祭りの感覚やカートコ・バーンなどのギタークラッシュが印象にあったことがモチーフとなって結実した作品だと思う。出典が曖昧なのだが、あるアニメーション制作会社の入社試験の課題で「杭を打つ人物のアニメーションの作成」をテレビで見たことも発想の要因だと思う。この様な例からも分かるようにパイルドライバーは見た目も込みの音が出る作品である。故にパイルドライバーはパフォーマンスアートの作品であると言える。エレキギターに由来する作品であると言いたい理由はロックミュージックへの憧れや自分より上手にギターを演奏する友人たちへの当てつけなどであるが最も大きな気持ちは彼らへの尊敬で次いで感謝である。私は私の方法で音を出してカッコつけるので彼らもそのままあるいは今以上にカッコよくあって欲しいと思う。
・ パフォーマンスアートの作品として作った作品であったが、実際に観衆の前でやるには条件が揃わないと難しいことが分かった。観衆の前でやりたいという願望は今もあるが、最近は主に1人でパフォーマンスを撮影しに行くことが多い。数本納得がいく映像が出来てきたおかげでこの作品のコンセプチュアルアート的側面も見えてきた。画面に対する機材や出演者の配置は一定にし上記の要領で演奏行為を記録していくことを今後も続けていきたいと思う。

グッズ(木片)について
・ 撮影データ3本をUSBまたはSDカードに収録して、使用したパイルドライバーの木材部分を切り分け溝を彫り、その溝にUSBまたはSDカードを格納してシュリンクフィルムで包んだもの(以下、木片とする)をグッズとして販売している。現在は個人での販売と高円寺・黒猫aka円盤(以下、円盤とする)で委託販売している。使用したパイルドライバーの処理と円盤にグッズを置けることになったことがきっかけで制作した物である。私が音楽をCDで聴くことが趣味ということも木片を作る要因になっている。最初に木片でUSBを使ったのは平間貴大氏から高解像度の無音と低解像度の無音のデータが収録されたUSB作品を購入したことが要因の一つである。この作品の良いところは内容を確認しなくてもその事実だけで素敵だなと思えるところである。自分が思いついた事にしたいくらい良い作品だなと思う。もう一つの要因は、世代に関わらずCDやDVDを再生する機械を持っている人が意外と少ないと知ったことである。それは音楽や映画のサブスクやYouTubeで視聴には事足りるということだと思う。私もよく利用している。それでもなお、ディスクを買いに行くことのある種儀式のような遊びが私にはやめられない。所有に至る工程が私を作品を視聴する状態に移行させる儀式のような気がするしお店に足を運んだりネットで購入したCDやDVDが手元に届くことが楽しいことだと思っている。そういった工程を経て鑑賞者にも作品を所有してもらいたいと思っている。使用したパイルドライバーを加工する事によってそれが新たに脈動するような事がグッズという形になり人の手に渡ることで起これば良いなと思っている。それで金銭が発生して私の手に残り私の新たな活力になることもやぶさかでは無い。

木片メディア無しバージョンについて
・ パイルドライバーのパフォーマンスで使用した木材という思い出があればグッズとして成り立つのではないかという考えからメディアの無いバージョンの木片も作った。メディア無しバージョンを購入して映像データが欲しい場合はデータをアップしているGoogle driveのリンクを渡すことにしている。これはメディアあり木片を販売した時も多々あった事で、シュリンクフィルムを剥がさずに映像が観たいという要望に応えるため処置だ。私はこれをいい事だと思っている。木片のプロダクトとしての良さが発生しているということだと思うからである。それでもなおメディア有りにこだわるのは、ネット環境がなくても再生できるという事がなんとなく大切なような気がするからだ。


杉野晋平

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©️Koichi MITSUOKA


杉野晋平 SUGINO SHIMPEI パフォーマンスアーティスト
92年生まれ。愛知県出身。東京都在住。行為詩と自作楽器の製作とその演奏と記録をする。主な作品は、木の杭にエレキギターの機能を搭載しアンプに繋ぎ土の地面に打つ「パイルドライバー」、冷蔵庫にピックアップマイクをかざしギターエフェクターを繋ぎ演奏する「ヘヴィーウエイト」。Cooking core/Industrial ambient black metal バンドKCN.kitchenのメンバー。https://youtube.com/channel/UCih5bFgKKQhZoM_Wqd6ZdsA

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撮影データ3本をUSBまたはSDカードに収録して、使用したパイルドライバーの木材部分を切り分け溝を彫り、その溝にUSBまたはSDカードを格納してシュリンクフィルムで包んだもの。現在は個人での販売と高円寺・黒猫aka円盤で委託販売している。

冷蔵庫演奏で使用する杉野晋平が私生活で使用している冷蔵庫。演奏の予定がある時は主に自宅から台車に載せ、時間帯に配慮して電車を使って移動している。

2020年に京都で行われたOBJECT at ANTEROOMに展示するために制作した専用ケース。音響機材用ケースをパイルドライバーと両口ハンマーを収納する専用のケースに改造したもの。1人で撮影するために運ぶにはケース自体が重すぎるため主に展示用の什器として使用している。

冷蔵庫演奏に使用するギターエフェクター群とそれを収納するためのケース。エフェクターを繋いだままの状態で収納することができる。ハードオフで購入したシンセサイザー用ケースを改造したもの。自宅での練習の準備時間の短縮のために制作した。合板の下に空間があり電源コードなどを収納しゴチャつきを解消することができる。

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撮影:トモトシ

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杉野晋平「HOME LISTENING ホームリスニング」終了しました!お越しいただき感謝です!7時間耐久で音、映像、食をワンオペでまわす晋平くんお疲れさまでした!つねに小走りの晋平くんでしたが、
満身創痍のなか演奏したラストのパフォーマンスで、これまで聞いたことのない音を響かせてて、これには感動しました。注文のたびに冷蔵庫の音が変わるため、観客も含めてこの部屋全体でパフォーマンスしてるみたいなダイナミックなショウでした!終演後には、晋平くんが今後やりたいことをいくつも話しているのを聞いて、このイベントをやれてよかったと思いました。最後に、殊更強調することでもないかと思って言ってなかったですが、実は晋平くんはTOMO都市美術館のメンバー(配膳係!)で、住まいが近所ということもあって頻繁に遊びに来てくれる仲なのでした。それだけでなく、おいしいお酒や料理を作ってくれたり、飲食店情報を提供してくれるのでした。めっちゃ頼りになる配膳係さん、今後ともよろしくお願いします!一年後、まだTOMO都市美術館が現存してたら、アップデートしたパイルドライバー引き連れてまたイベントやりましょう、と約束して解散!とにかく楽しかった(忙しかった)!(トモトシ)

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TOMO都市美術館