下大沢駿「さよならプラタナス」

トモ都市美術館にて、下大沢駿 個展「さよならプラタナス」を、9月19日(土)から9月27日(日)まで開催します。

「「アスファルト」の下に「土」があることを実感したい。」
これがニュータウン出身系アイデンティティを追及する彫刻作家・下大沢駿の願望だ。流れて消えてしまわないかと、心配になるほどささやかではないか。そしてこのたび、流れて消えてしまいそうなスペースで下大沢が取り組むのは、これまた消えてしまう運命の街路樹への哀悼だ(*1)。

下大沢が自身の作品について語るとき、「自然」という言葉を好んで使う。人工物で覆われた自然、人工的な自然といった自然、コーティングと複製が行われた自然、人の作為に覆われた自然、といった具合だ。これらは主に、郊外の都市計画の副産物として現れた自然のことを指している。このおよそネガティブな意味を含んでいそうな「自然」は、しかし、下大沢にとってはむしろ肯定すべき対象でもある。なぜなら下大沢自身もニュータウンで育ち、その「自然」を享受してきた1人なのだから。

都市計画の大きな波に翻弄される「自然」。それを下大沢作品が肯定する手つきには、常にユーモアがある。ニュータウンを形成してきた材料であるコンクリートを、あえて作品素材として使うのもその要素の1つだ。そして今展示においては、歴史の断絶への抵抗を、水やりというささやかな行為に託す。

作家としての下大沢が<私たち>と言うとき、それは特に歴史との断絶を克服しようとする郊外の地域集団を指しているようである。しかし、西荻の街路樹の行く末を、道路拡張によって退くコミュニティーを、さらに言えば断絶を繰り返してきた日本史や世界史を想像したときに、この<私たち>に含まれている人たちが、思いのほか多いことに気付く。少なくとも僕は既に、<私たち>のなかに含まれてしまっている。(トモトシ )

*1──「流れて消えてしまいそうなスペース」とは、本展覧会が開催されるトモ都市美術館のことである。不動産業者との悶着により、開館5カ月にして閉鎖の危機にある。「消えてしまう運命の街路樹」とは、トモ都市美術館の全面道路に植えられているプラタナスのことである。着工中の道路拡張工事によっていずれ撤去される予定。

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「さよならプラタナス」

展示会場の前を通る、東京都市計画道路補助線街路第132号線(補助132号線)は、道路拡張の工事が予定されている。半世紀以上着手されていなかった計画が近年再始動し、立ち退きなどを巡って反対運動も起きている。このまちの部外者である私は、都市計画の有用性や諸々の利権よりも、やがてそこから居なくなる街路樹プラタナスの木々に感情移入をする。歴史を紡ぐことのないプラタナスは、都市計画に翻弄される私たちそのものだ。

会場内にめぐらされたホースを伝い、街路樹に水をやって労わるインスタレーションや、近く工事が予定されている木々にささやかな石碑を供える作品などを中心に、他の地域を題材にした作品も交え、都市計画が生む断絶を乗り越えるための作品が展示される。(下大沢 駿)

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下大沢 駿  SHIMOOSAWA Shun
1993年東京都生まれ。神奈川県出身。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。ニュータウン出身系アイデンティティ模索型の作家。都市計画における自然の人工的な側面に注目し、過去との非接続によって拡散されたリアリティを対象化する。近年の展示として、「Artists in FAS 2019」(藤沢市アートスペース, 神奈川, 2019)、「街路樹とスーパー堤防」(S.Y.P Art Space, 東京, 2019)、「EXPOSITION ―来るべきアート | art to come」(銀座 蔦屋書店, 東京, 2020) 。
「アスファルト」の下に「土」があることを実感したい。これが今の私の願いです。便利で快適な、郊外の新興地で過ごしてきた私が感じる、断絶と継承の問題を、人間の作為と自然の関係から読み解く試みをしています。
shimoosawa.com

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撮影:下大沢駿
撮影:下大沢駿
撮影:下大沢駿
撮影:下大沢駿
撮影:下大沢駿
撮影:下大沢駿

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都市計画に揺れるトモ都市美術館において開催された下大沢駿個展。街路樹という、「自然」と「人工」の拮抗の結果としての存在を焦点とする展示が作られています。ステートメントを読めばわかりますが、彼のモチベーションはとても私的で、なんならささやかとさえ言えます。それでも彼の作品を見ると、「都市」や「社会」といった公共の概念について考えざるをえなくなります。普段疑問もなく歩いている地面がどういう歴史に基づいて成立しているのか、都市はどうやって自然をコントロールしているのか。西荻窪駅からのアクセスルートにある街路樹の根本に配置されたプレートや、鑑賞者のアクションによって建物中に張り巡らせたホースから水を循環させるという仕掛けなど、展覧会は動的な様相を呈していました。道路拡幅工事に反対する団体との合流?や、2度のトークイベントでの議論など、展覧会を起点にして多くの議論が生まれました。引き続き都市計画に揺れる建物に居住する当事者として、考え続けていきたいと思っています。 (トモトシ)

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TOMO都市美術館