神谷有紀「労働跡地」

トモ都市美術館にて、労働者、神谷有紀による “労働に新しい価値付け” をする展覧会「労働跡地」を、9月11日(金)から9月13日(日)まで開催します。本展は、神谷の「労働の一番の対価は所作である」という考えに基づき、労働における所作の存在と重要性を、新しい労働価値として提示する展覧会となります。

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サンティアゴ・シエラが労働者の搾取を露悪的に告発する態度とは違う。アンナ・ヴィットが労働を取り巻くシステムを異化作用によってあぶりだす態度とも微妙に違っている。むしろ神谷のそれは、現在から1世紀ほど遡った、プロレタリア美術にこそ親和性を感じる。

では神谷の表現が「労働者の、労働者による、労働者のための美術」なのかと言えば、そうではない。神谷の表現からは、革命や労働者の権利といった社会的意義をうたう素振りは見えてこないのだ。この点において、プロレタリア美術が常に社会運動と連帯していたのと好対照である。

つまり神谷の表現は、プロレタリア美術ではあっても、プロレタリア美術運動ではない。神谷の欲望は、労働によって生成される所作を愛で、鑑賞対象として保存することの外側にはないのだ。

神谷の言葉に注目しよう。「地球上に存在するものは、労働するために存在している」。 神谷に言わせれば、鉱石や木材にすら風化・腐食という変化の工程があり、それはまぎれもなく労働なのだという。

「全存在にとって不可避な労働」の残滓に対する執着。これこそが神谷をユニークにしている点だ。本展には神谷だけの執着が並ぶ。神谷が言うように労働が全存在に課された命題とするならば、このユニークな執着にこそ普遍性が宿るはずだ。(トモトシ)

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「消え得る労働と生まれてくる所作について」

労働の対価とは何だろうか。一般的には、最大の対価は賃金であると認識されているかもしれない。しかし私は、生きていく上で労働がもたらす1番価値あるものは、所作であると考える。

私は現在、最低賃金で接客業を行っている。1日中休憩時間がない時もあれば、休日が1週間以上ない時もある。だが、特に苦だとは思わない。働けば働くほど、得られる経験があるからだ。

生活してくための資金として、賃金は勿論大切である。現代社会において、殆どの人が労働で得た収入で生活している。私もまた、同じように労働で得た収入で生活している。

しかし、賃金は一時的に手元に入っては消えていく。食べ物や生活必需品を購入して、自分の所有物として還元されたとしても、それは一過性のものだ。

対照的に、労働により身についた技術や所作は体に染みつき無意識に行っているものである。

経営難からその職業を離れたり、今後その産業自体が世の中から無くなったとしても、習慣となった所作は体が勝手に覚えているだろう。

経験とは、何にも替えられない、得られたものだけが分かる特別な財産であると、私は思う。

例えば私は、レジを打つ手捌きが素早く見惚れるようなしなやかな動きをする人や、服を畳む滑らかな手つきに上品さすら感じるような人に、その人にしか出せない品やエロスなど、それぞれの価値を感じる。

私が良さを感じた所作について、当の本人も自分の作法に魅力を感じているのかどうかは正直分からない。そして、本人があえてその動きをしているかどうかということも、あまり関係ないと私は思っている。なぜなら、意図して行っていたとしても無意識にやってしまっていたとしても、その技術や所作は労働経験が無ければ習得できないものだからだ。全ては労働から発生しているのである。

本展覧会では、様々な労働環境における、所作の存在や重要性を見つけ出し、改めて価値あるものとして、作品を発表してく。(神谷有紀)

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会期:2020年9月11日(金)- 9月13日(日)
時間:13:00 – 21:00
会場:トモ都市美術館 (東京都杉並区上荻4-6-6)
料金:フリードネーション(寄付)

アーティストトーク:
9月12日(土)17:00 – 19:00
出演:神谷有紀 / 聞き手:トモトシ、 西田編集長 

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神谷有紀   KAMIYA Yuki
1998年愛知県生まれ、在住。2020年に美学校外道のススメ修了。最低賃金で休憩を取らず12時間1人でレジをするなど、過酷な環境で働いたことをきっかけに、自分にとって労働とは何なのか考えるようになる。現在は、労働における対価や経験で得られる報酬などを新しい価値として、労働者目線で考え、作品を制作している。

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Photo_Masaru Kaido
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美学校「外道のススメ」一年間の成果展であり、デビュー展でもありました。誰もが避けて通れない「労働」がテーマ。長期間の労働によって体得される表情や体の動きこそ労働の価値だという、独特な視点を極限まで拡大したような作品が並びました。展覧会イメージでもある“神谷ブルー”の笑顔拓作品「労働跡地」、スローモーションで洋服を畳むショップ店員の映像「スロー労働」、自動翻訳を純粋な労働と読み替える「エキサイト伝承」など、タイトルの段階ですでに面白い。三日間の会期でしたがたくさんの方に来ていただきました。そしてバイトのシフトに穴を開けられないということで、彼女は展示最終日を待たずに東京を後にしていきました!(トモトシ)

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TOMO都市美術館